CeD Labo · テーマまとめ

なぜ同じトレーニングをしても差がつくのか|身体能力を決める3つの層

なぜ同じトレーニングをしても差がつくのか|身体能力を決める3つの層

同じジムに通って、同じメニューをこなす。

それなのに、片方はどんどん動けるようになって、もう片方はほとんど変わらない。

こういうとき、たいてい「才能の差」で片づけられます。

でも、本当にそうでしょうか。

同じことをして結果が違うなら、同じことをする前の状態が違っていた可能性があります。


先に断っておきます

これから示す「3つの層」は、確立した医学モデルではありません。

バラバラに存在する研究を並べて眺めるために、こちらで用意した整理の枠組みです。

つまり仮説です。

ただ、この枠組みで並べ直すと、いままで別々の話に見えていたものが繋がって見えてきます。


身体能力は、足し算ではなく掛け算

3つの層があります。

▼ 身体能力を決める3つの層

・層1|材料 … 体をつくる材料が足りているか

・層2|制約 … 構造が邪魔をしていないか

・層3|運用 … 体を正しく使えているか

大事なのは、これが足し算ではなく掛け算だという点です。

どれか一つがゼロに近ければ、他をどれだけ積んでも結果は伸びない。

そして掛け算である以上、取り組む順番が生まれます。


層1|材料は足りているか

体は材料でできています。

材料が足りない状態で負荷をかけても、回復が追いつきません。

たとえばマグネシウムは、体内で300種類以上の酵素反応に関わるミネラルです。

エネルギーを作る、筋肉を動かす、神経の興奮を抑える——どれにも関わっています。

もう一つの材料側の問題が、慢性的な炎症です。

痛みも腫れもないのに、体の中で炎症性の物質がずっと出続けている状態のことです。

食べ物の成分がこれを動かしうることは、人を対象にした試験でも報告されています。

クルクミン補給でCRPが平均1.24 mg/L低下(785名・13件のRCTを統合、p < 0.00001)

CRP(体のどこかで炎症が起きているとき肝臓が作るタンパク質)は、炎症の目安として血液検査でよく使われる数値です。

ただし、この研究の対象は代謝症候群のある成人です。

健康な人に同じことが起きるかは、別に確かめる必要があります。

この層が崩れている人のサインは、「寝ても回復しない」「なんとなくだるい」あたりに出ます。


層2|構造が邪魔をしていないか

ここが、いちばん語られない層です。

そして「トレーニングしても効かない人」の背景にある可能性がある層でもあります。

この層は、性質の違う2つに分かれます。

2a|生まれつきの構造

骨格、顎の発達、鼻の通り、舌の動く範囲——こうした形の問題です。

たとえば舌の位置は、それだけで首の奥の筋肉の状態を変えることが報告されています。

超音波エラストグラフィ(組織の硬さを画像で測る方法)を使った実験で、舌を口の天井に押し当てると、首の深部にある筋肉の硬さが変化しました。

つまり、舌の位置は首から下へ波及する経路を持っているということです。

ここから、ひとつの仮説が立ちます。

もし構造的に舌が上顎につきにくい人がいるとしたら、「舌を上につけましょう」という指導は、その人にとってはそもそも成立しないのではないか。

効かないのではなく、始められないのではないか。

念のため書いておくと、これは「原因の一つとして考えられる」という段階の話です。

個別の診断や、その治療をすべきかどうかは医療の領域であり、この記事で扱える範囲を超えています。

気になる場合は専門の医療機関に相談してください。

2b|生活習慣で崩れたもの

一方で、生まれつきは何も問題がないのに、後から崩れた人がいます。

長時間の座位、動かない生活、いつも同じ姿勢。

こちらは、戻る可能性がある崩れです。

たとえば頭が前に出た姿勢は、それだけで歩き方そのものが変わることが報告されています。

そして崩れたものが戻りうることを示す報告もあります。

体の深部を縦に走る筋膜のライン(ディープフロントライン)に対して介入したところ、膝の痛みが5割以上減ったという臨床報告です。

一度も鍛えていない人が、いきなり強くなった話ではありません。

邪魔をしていたものが外れたという話です。

おそらく、多くの人はこの2bにいます。


層3|正しく使えているか

材料があり、構造も邪魔をしていない。

そのうえで最後に来るのが、使い方です。

歩くという当たり前の動作ひとつとっても、体の奥にある筋肉が働いています。

二足歩行のモデルを使った研究では、腸腰筋(背骨と脚をつなぐ体の深部の筋肉)を外すと、歩行そのものが成立しなくなることが示されています。

足の着き方によって、膝や足首にかかる負荷の質が変わることも報告されています。

つまり運用の層は、「頑張って鍛える」より前に、そもそもどう使っているかの話です。


自分がどこにいるかの見取り図

順番があると書きました。

自分がどの層にいるかで、次にやるべきことが変わります。

▼ どの層を疑うか

・寝ても回復しない、だるさが続く → 層1(材料)

・昔から人並みにできない、何をやっても変わらない → 層2a(構造)の可能性

・座りっぱなしの生活が長い、体が固まっている → 層2b(崩れ)

・ある程度動けるが、そこから伸びない → 層3(運用)

多くの人は2bにいて、ここは取り組めば戻る可能性がある場所です。

逆に、2aにいる人がいくら層3のトレーニングを積んでも、思うような結果にならないことがあります。

「効かない」のは、努力の量の問題ではないかもしれない。


CeD Laboの視点

「やる気が出ない」「自分には運動のセンスがない」

そう感じている人は多いと思います。

でも、やる気や才能の問題に見えていたものが、実は身体機能の制限だったとしたら。

制限のいくつかは外せます。

材料は足せますし、崩れた機能は戻せる可能性があります。

そして外れたあとに初めて、トレーニングが効き始める。

身体能力は才能ではなく、条件が揃った結果なのではないか——これがCeD Laboの立てている仮説です。

まだ確かめている途中です。

これから一つずつ、研究を読んで確かめていきます。


これから扱っていくこと

この3層に沿って、順に記事を積んでいきます。

▼ 今後の予定

・制約シリーズ … 舌・鼻呼吸・顎の発達など、構造の話

・運用シリーズ … 立つ・歩く・呼吸する・力を抜く

・材料シリーズ … 栄養と炎症(継続)

・検証シリーズ … 世の中でよく言われている方法を、論文で確かめる

最後の一つについて補足します。

体の使い方に関する情報は、いま世の中にあふれています。

その中には、実際に理にかなっているものも含まれているはずです。

なので「怪しいから否定する」のではなく、論文があるかを確かめて、あった/なかった/条件つき、を正直に書くという形で扱っていきます。

「研究が見つからなかった」も、そのまま書きます。


本記事は研究論文の要約・解説であり、医療上のアドバイスではありません。

症状がある場合は医療機関へご相談ください。