口呼吸は良くない。
そう言われることは多いのですが、具体的に何が起きるのかまで説明されることは少ない。
「風邪をひきやすい」くらいの話で終わりがちです。
ところが研究を見ると、もっと構造的な話が出てきます。
顔の骨の育ち方そのものが変わる。
しかもそれが、複数の研究を統合したメタ分析で示されています。
顔の骨格をどう測るのか
前提として、専門用語を1つだけ説明します。
顔の骨格は、レントゲン写真の上に基準点を置いて、角度や距離で測ります。
▼ この記事に出てくる指標
・SNA:頭蓋の基準線に対して、上あごがどれくらい前にあるか
・SNB:同じ基準線に対して、下あごがどれくらい前にあるか
・ANB:上あごと下あごの前後のズレ(大きいほど下あごが後ろ)
・PP-MP:上あごの平面と下あごの平面がなす角度(大きいほど下あごが下向きに回転)
数字そのものより、どちらに動いたかを見てください。
この研究について
Zhao et al.(2021年、BMC Oral Health)は、口呼吸が子どもの顔面骨格の発達と噛み合わせに与える影響を調べたシステマティックレビューとメタ分析です。
▼ 研究の概要
・検索:PubMed、Cochrane Library、Medline、Web of Science、EMBASE ほか(2020年2月まで)
・対象:18歳未満の子ども
・統合:最終的に10件の研究を統合
・評価:ROBINS-I(バイアスのリスク評価)とGRADE(証拠の質の評価)を使用
比較しているのは、口呼吸の子どもと鼻呼吸の子どもです。
わかったこと
上あごも下あごも、前方への発達が小さかった
SNA:平均差 −1.63(p < 0.0001)
SNB:平均差 −1.96(p < 0.0001)
どちらもマイナス、つまり口呼吸の子どものほうが小さい値でした。
上あご・下あごとも、前方への位置が小さいということです。
上下のあごのズレが大きかった
ANB:平均差 0.90(p < 0.0001)
上あごと下あごの前後関係のズレが、口呼吸の子どもで大きくなっていました。
下あごが下向きに回転していた
ここが特徴的です。
PP-MP:平均差 4.92(p < 0.0001)
SN-OP:平均差 3.05(p < 0.0001)
SN-PP:平均差 0.68(p = 0.0050)
下あごの平面の角度が大きい——つまり下あごが下・後ろ方向に回転していました。
一般に「顔が縦に長くなる」方向の発達です。
前歯の傾きも違った
1-NA:平均差 0.66(p = 0.004)
1.NA:平均差 1.96(p = 0.009)
1-NB:平均差 1.03(p < 0.0001)
前歯の位置や傾きにも差が出ていました。
なぜ呼吸で骨格が変わるのか
骨は、かかる力に応じて形を変えます。
① 口を開けたままの姿勢が続く
鼻が通らないと、口を開けて息をします。
下あごが下がった状態が長時間続きます。
② 舌の位置が下がる
通常、舌は上あごの天井に触れています。
この舌の圧が、上あごを内側から押し広げる力になります。
口呼吸では舌が下に落ちるため、この押し広げる力がかからなくなります。
③ 頬からの圧だけが残る
内側からの支えが減り、外側の頬からの圧が相対的に強くなります。
結果として、上あごの幅が狭くなりやすい。
④ 力の向きが変わると、育つ方向も変わる
成長期は骨が変化しやすい時期です。
日常的にかかる力の向きが変われば、育つ方向も変わります。
この結果をどう読むか
① 関連であって、因果の証明ではありません
「口呼吸だから骨格がこうなった」と断定するには、さらに検証が必要です。
もともと骨格が狭いから口呼吸になった、という逆の順序もありえます。
② 対象は子どもです
成長期の話であり、成人の骨格に同じことが起きるという研究ではありません。
③ 統合されたのは10件
大規模とは言えない数です。
④ 個人差があります
平均の差であり、口呼吸の子ども全員がこうなるわけではありません。
CeD Laboの視点
この研究が興味深いのは、呼吸という日常動作が、体の「形」そのものを変えうると示している点です。
一日に約2万回する動作です。
その一回ごとの力は小さくても、成長期に積み上がれば形に残る。
そして顔の骨格は、気道の広さと直結しています。
あごが後ろに下がった骨格は、空気の通り道が狭くなりやすい。
つまり——
口呼吸が骨格を変え、その骨格がさらに気道を狭くする。
原因と結果が循環する構造になっている可能性があります。
こうなると、「どこが最初のボタンだったのか」を探すことに意味が出てきます。
論文情報
・タイトル:Effects of mouth breathing on facial skeletal development in children: a systematic review and meta-analysis
・著者・発行年:Zhao Z, Zheng L, Huang X, Li C, Liu J, Hu Y. 2021
・掲載誌:BMC Oral Health 21: 108
・DOI:10.1186/s12903-021-01458-7
・エビデンスレベル:★★★★(システマティックレビュー・メタ分析・10研究を統合)
・注意:18歳未満の子どもを対象とした研究です。関連を示すものであり、因果関係を確定したものではありません。
本記事は研究論文の要約・解説であり、医療上のアドバイスではありません。
症状がある場合は医療機関へご相談ください。