猫背を直そうとして、胸を張る。
肩を後ろに引く。
それでも、気を抜くとすぐ元に戻る。
多くの人が経験していることだと思います。
では、もしその姿勢が「癖」ではなく、別の理由があってそうなっているとしたら。
姿勢そのものを直そうとしても、戻るのは当然かもしれません。
今回の研究は、その可能性を考えさせるものです。
息が通らないと、頭が前に出る
まず前提を整理します。
鼻の奥にあるアデノイドや扁桃が大きくなると、空気の通り道が狭くなります。
すると鼻で息をしにくくなり、口で呼吸するようになります。
このとき、体は無意識にあることをします。
頭を前に出し、あごを上げる。
なぜかというと、その姿勢のほうが気道が開くからです。
苦しくなったとき、人は自然にあごを突き出す姿勢をとります。
つまり——
姿勢の崩れが、呼吸を確保するための調整として起きている可能性がある、ということです。
もしそうなら、順序が逆になります。
姿勢が悪いから苦しいのではなく、苦しいからその姿勢になっている。
この研究について
Neiva et al.(2018年、International Journal of Pediatric Otorhinolaryngology)は、この仮説を「手術」という形で検証した研究です。
▼ 研究の概要
・対象:口呼吸の子ども49名
・年齢:平均6.3 ± 1.8歳
・介入:アデノイド・扁桃の摘出手術
・測定:手術の前と後で姿勢を比較
やっていることはシンプルです。
気道を塞いでいるものを取り除いて、姿勢が変わるかを見る。
姿勢のトレーニングは一切していません。
▼ 測定した姿勢の項目
・胸椎の後弯(背中の丸まり)
・前方頭位(頭が前に出ている度合い)
・肩の突出
・肩甲骨の外転・挙上・前傾・内旋
わかったこと
手術後、前方頭位・肩の突出・肩甲骨の挙上・肩甲骨の前傾が有意に減少した
姿勢の練習をしていないのに、頭の位置と肩甲帯の姿勢が改善しました。
論文の結論はこうです。
アデノイド・扁桃摘出術の結果のひとつは、口呼吸の子どもの頭と肩甲帯の姿勢の改善である。
なぜ気道を広げると姿勢が変わるのか
考えられる説明はこうです。
① 頭を前に出す理由がなくなる
気道が広がれば、あごを突き出して空気の通り道を確保する必要がなくなります。
代償の必要がなくなれば、代償はやめられます。
② 呼吸が楽になると、上半身の力みが減る
息が苦しいと、首や肩の筋肉まで呼吸を手伝おうとします(呼吸補助筋)。
これが肩の挙上や前傾につながります。
呼吸が楽になれば、その動員が減ります。
③ 姿勢は「選ばれた結果」かもしれない
体は、その時点で一番安全な選択をします。
呼吸の確保は生存に直結するので、姿勢の美しさより優先されます。
そう考えると、崩れた姿勢は失敗ではなく、適応だったことになります。
この結果をどう読むか
ここは慎重に読む必要があります。
① 対照群がありません
手術を受けた子どもたちの、手術前と手術後を比べただけの研究です。
手術を受けなかった同年代の子どもと比較されていません。
② 対象は平均6歳の子どもです
6歳前後は、体が急速に成長する時期です。
つまり、手術のおかげなのか、成長による自然な変化なのかを、この研究デザインでは分けられません。
ここは論文の結果を受け取るうえで、いちばん大事な限界です。
③ 子どもの結果であり、大人に当てはまるとは限りません
成長期の骨格は変化しやすい状態にあります。
大人の骨格で同じことが起きるかは、この研究からは分かりません。
④ アデノイド・扁桃の手術です
舌に対する処置ではありません。
気道を狭くしている原因は人によって違います。
⑤ エビデンスレベルは高くありません
観察研究であり、ランダム化比較試験ではありません。
「関連が報告されている」という段階の話です。
CeD Laboの視点
この研究が示したのは、姿勢が上流の問題の結果として現れることがあるという可能性です。
姿勢そのものを直そうとしても戻ってしまうとき——
原因が姿勢の外側にあるのかもしれない、という視点が持てます。
もちろん、猫背のすべてが気道で説明できるわけではありません。
長時間の座位や、単純な運動不足のほうが原因として一般的です。
ただ、「何をやっても戻る」という人にとっては、確かめる価値のある原因の一つだと考えています。
なお、気道が狭いかどうかは自己判断できません。
気になる場合は耳鼻咽喉科などの医療機関で相談してください。
論文情報
・タイトル:The effect of adenotonsillectomy on the position of head, cervical and thoracic spine and scapular girdle of mouth breathing children
・著者・発行年:Neiva PD, Franco LP, Kirkwood RN, Becker HG. 2018
・掲載誌:International Journal of Pediatric Otorhinolaryngology
・PMID:29501288
・エビデンスレベル:★★(観察研究・対照群なしの前後比較・n=49)
・注意:平均6.3歳の子どもを対象とした研究です。対照群がないため、成長による変化と手術の効果を分離できていません。大人への適用は要検証です。
本記事は研究論文の要約・解説であり、医療上のアドバイスではありません。
症状がある場合は医療機関へご相談ください。