CeD Labo · 論文要約

横隔膜を鍛えたら、スクワットが安定した|呼吸筋トレーニング8週間のRCT

Seo et al. (2024) · Life

横隔膜を鍛えたら、スクワットが安定した|呼吸筋トレーニング8週間のRCT

「体幹を鍛えろ」と言われます。

プランク、デッドバグ、バードドッグ。

ジムでよく見る種目です。

ではその「体幹」に、呼吸の筋肉を足したらどうなるか。

同じ8週間で、結果が変わるのか——それを比べた研究があります。


横隔膜は「呼吸の筋肉」だけではない

横隔膜は、肺の下にあるドーム状の筋肉です。

呼吸の約7割をこの筋肉が担っています。

ただ、それだけではありません。

横隔膜が下がると、お腹の中の圧力が高まります。

これを腹腔内圧(IAP:お腹の中の圧力のこと)と呼びます。

この圧が、内側から背骨を支えます。

▼ お腹の圧をつくる4つの壁

・天井 :横隔膜

・底  :骨盤底筋

・側面 :腹横筋(お腹をコルセットのように囲む筋肉)

・背面 :多裂筋(背骨に沿う深部の筋肉)

この4つが同時に働くと、お腹が「圧のかかった筒」になります。

筒に圧がかかると、背骨のぐらつきが減る。

これが体幹の安定と呼ばれているものの正体のひとつです。

つまり横隔膜は、呼吸の筋肉であると同時に、姿勢の筋肉でもあります。


この研究について

Seo et al.(2024年、Life誌)は、横隔膜のトレーニングを足すと体幹の安定が変わるのかを調べたランダム化比較試験です。

▼ 研究の概要

・対象:20代の男性37名

・条件:ウエイトトレーニング歴1年以上、80%1RMで5回以上スクワットできる

・期間:8週間

・分け方:くじ引きによるランダム割り付け(3群)

「80%1RM」とは、1回だけ挙げられる最大重量の8割という意味です。

つまり全員、それなりに鍛えている人たちです。

▼ 3つのグループ

・DCTG(12名):横隔膜トレーニング + 体幹トレーニング

・CTG(13名):体幹トレーニングのみ

・CG(12名):何もしない対照群

体幹トレーニングは両群とも同じ内容です。

週3回・50分(ヒップブリッジ、プランク、デッドバグ、バードドッグなど)。

横隔膜トレーニングだけがDCTGに追加されました。

▼ 横隔膜トレーニングの中身

・吸気抵抗デバイスを使用(息を吸うときに負荷がかかる器具)

・30回×1日2回(朝・夕)

・週6日・8週間

・1回あたり5分以内

注目したいのは、1日たった5分×2回という点です。


わかったこと

横隔膜そのものが厚くなった

横隔膜の厚さ:2.34mm → 3.15mm(+34.62%)

超音波で測った横隔膜の厚さが、8週間で3割以上増えました。

一方、体幹トレーニングのみの群は+1.36%、対照群は+3.62%。

群間の差は統計的にはっきりしていました(F = 42.032、p < 0.001)。

筋肉なので、鍛えれば厚くなる。 当たり前ですが、それが画像で確認されたことになります。

吸う力が強くなった

平均吸気圧:94.71 → 112.59 cmH₂O(+18.88%、p < 0.001)

最大吸気圧:+18.62%(p < 0.001)

息を吸う力が約2割上がりました。

体幹トレーニングのみの群は+1.31%で、ほぼ変化なしです。

スクワットの姿勢が安定した

ここからが本題です。

動的姿勢安定性指数(DPSI):−28.13%

DPSI(動作中の姿勢のぐらつきを数値化した指標)は、低いほど安定を意味します。

DCTGは28%改善、体幹トレーニングのみの群は21%改善(p < 0.001)。

体幹伸展モーメントのピーク:−15.22%

体幹伸展モーメントとは、しゃがんだときに上体が前に倒れようとする力に対して、腰が踏ん張っている量のことです。

これが減ったということは、腰への負担が減ったと解釈できます。

対照群はむしろ+19.31%と増えていました。

仙骨と上体の中心点の距離:−6.19%

上体の軸が、骨盤の真上に近づいたということです。

一方で、膝の屈曲モーメントには群間の差がありませんでした。

すべてが良くなったわけではないという点は、正直に見ておく必要があります。


なぜ横隔膜で体幹が安定するのか

考えられる経路はこうです。

① 圧の天井が強くなる

横隔膜が厚く強くなると、お腹の圧をより高く、より長く保てるようになります。

圧が高いほど、背骨のまわりの剛性が上がります。

② 高負荷でも圧が抜けにくくなる

重いものを持ったとき、人は息を止めて腹圧を高めます。

横隔膜が疲れやすいと、この圧が途中で抜けます。

圧が抜けた瞬間に、上体が前に流れます。

③ 結果として、余計な力みが減る

内側から支えられていれば、外側の大きな筋肉が過剰に頑張る必要がなくなります。

体幹伸展モーメントが減ったのは、この現れかもしれません。


この結果をどう読むか

限界も明記されています。

① 男性のみの研究です

女性では神経筋のコントロールや解剖学的特徴が異なる可能性があり、そのまま当てはめられません。

② 8週間・前後2回の測定のみ

途中経過は測られておらず、効果がその後も続くかは分かっていません。

③ 対象は「すでに鍛えている人」

ウエイトトレーニング歴1年以上の20代男性です。

運動習慣のない人に同じことが起きるかは、別に確かめる必要があります。

④ 姿勢の安定は、怪我予防の一因子にすぎない

論文自身がそう書いています。

筋力バランス、柔軟性、技術——他の要素も関わります。

⑤ 器具を使った吸気筋トレーニングの結果です

「深呼吸をすればいい」という話ではありません。

負荷をかけた吸気トレーニングが検証された、ということです。


CeD Laboの視点

この研究が面白いのは、呼吸が「動きの質」を変えたという点です。

同じ体幹トレーニングをして、片方だけ姿勢が安定した。

差は、1日5分×2回の呼吸トレーニングだけでした。

体幹を「腹筋の力」だと考えていると、この結果は出てきません。

体幹を「お腹の中の圧」だと考えると、天井である横隔膜を鍛える意味が見えてきます。

東洋で「丹田」と呼ばれてきた場所が、解剖学的にはこの圧の空間に近いのではないか——そう考えると、伝統的な身体技法が呼吸を重視してきた理由とも重なります。

ただし、この研究が確かめたのは器具を使った吸気筋トレーニングです。

伝統的な呼吸法そのものを検証したものではありません。

そこは混ぜずに見ておきたいところです。


論文情報

・タイトル:Impact of Diaphragm-Strengthening Core Training on Postural Stability in High-Intensity Squats

・著者・発行年:Seo H, Jeong G, Chun B. 2024

・掲載誌:Life(MDPI)14(12): 1612

・DOI:10.3390/life14121612

・エビデンスレベル:★★★(ヒトRCT・3群比較・n=37)

・注意:20代男性・トレーニング経験者のみを対象とした8週間の研究です。女性・未経験者への適用は要検証です。


本記事は研究論文の要約・解説であり、医療上のアドバイスではありません。

症状がある場合は医療機関へご相談ください。